Perplexityは、アメリカ合衆国に本拠を置く検索に特化したAIチャットサービスです。ユーザーが質問を入力するとその回答を行う際、積極的にWeb検索を行い情報を収集した上で回答を生成するといった特徴があります。この情報収集の過程において、記事の複製等が発生しているとして多くのメディアから訴訟や抗議等が行われてきました。
これまでも複数のメディアから抗議や訴訟が行われてきましたが、本日共同通信社及びその加盟社によって、著作権侵害であるほかに誤内容のあるAI回答でブランド価値や信頼性を毀損したとした抗議が、Perplexityに対して行われました。また、同様の抗議が毎日新聞や産経新聞によって本日行われており、足並みをそろえる形となっています。
この記事ではこれらの抗議の概要と日本のメディアによるPerplexityに対する対応に関して簡単に紹介します。Perplexityとメディアの関係性に関して興味がある方の参考になれば幸いです。
結論
- 共同通信社とその加盟社がPerplexityに対して抗議を実施
- 毎日新聞と産経新聞も同日に抗議を行い、それぞれ発表
- 単に著作権違反だけではなく、誤内容のあるAI回答でブランド価値や信頼性を毀損した点も問題に
Perplexityに対する抗議
共同通信は日本を代表する通信社の1つで、全国の新聞社やテレビ局等が加盟する社団法人の形をとっています。共同通信は自ら取材を行った記事を全国に配信するほか、加盟社が取材した記事の一部を全国に配信する役割を担っています。
2025年12月1日、Perplexityに対して共同通信社及びその加盟社の一部は抗議書を送付しました。全文は公開されていないようですが、共同通信社によるプレスリリースにおいてその概要を確認することが出来ます。これによると、少なくとも2024年8月から、共同通信の記事や共同通信の加盟社の記事が掲載されるWebサイト「47NEWS」に数十万回Perplexityによるアクセスが存在したことが確認されたとしています。

このことは、無許可の回答生成に活用されていると共同通信は考えており、取得した記事の一覧や収集に使用したソフトウェア等の情報などの開示と損害賠償を求めています。また、要求が認められない場合法的措置をとる旨を示しているとのことです。
無許可の回答生成においては、AIの回答の参照元として共同通信等の記事を示したものの、記事の内容とは異なる文章が生成された場合があるとしています。これによって共同通信等のブランド価値や信頼性を毀損したとしており、この点に関しても問題視しているものとなっています。
また、毎日新聞社と産業経済新聞社も1日に同様の抗議を行っています。毎日新聞は、通知後14日以内に回答をすることを要請したことを明示しており、産経新聞は、Perplexityの行為を"コンテンツの「ただ乗り」"であると批判しています。
共同通信社のコメントによると、今回の取り組みによって「国内の主要メディアの足並みがそろった」としており、報道機関の収益を破壊するものである無許諾活用は容認できないとしています。また、過去にPerplexityと記事の活用に関する価格交渉を行っていたことを示していますが、2024年11月に交渉がストップしてしまったことを明かしています。
参考: 日本の著作権法におけるAI学習の除外規定とPerplexity
日本の著作権法第30条の4では
- 著作権者の利益を不当に害しない限り、
- 著作物に表現された思想または感情を自他共に享受させることを目的としない場合、
- 人による知覚を伴うことなくコンピューター等の情報解析等
に著作物を許諾なく利用できる旨が示されています。これはAIモデルの学習時等を念頭においた規定であり、AIを活用しているPerplexityもこの規定に当たるのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、Perplexityは学習して作られたモデルを使用して検索等を行い文章を作成しているため、この規定に当たらないと思われます。また、思想や感情等が含まれると考える文章を出力することから、特に2番の「著作物に表現された思想または感情を自他共に享受させることを目的としない」を満たさないと考えられます。
その他のメディアの動向
Perplexityに対しては、今回の共同通信・毎日新聞・産経新聞以外の日本のメディアも訴訟や抗議等を行っています。ここにおいてはいくつか実例を紹介します。
2025年8月7日、読売新聞グループ3社(東京本社・大阪本社・西部本社)は、Perplexityに対して約21億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に対して起こしました。これは日本国内に本拠を置く大手メディアによるPerplexityに対する訴訟として初めてのものです。
ここにおいては読売新聞オンラインの記事を収集・複製を許諾なく行ったとしています。記事一本当たりの損害額は通常の利用許諾料金を参考とし16500円とした上で、2025年2月~6月の間に少なくとも約11万9000本の記事を無断で活用したことを問題としています。また、読売新聞オンラインへの訪問を促さなかった点を指摘し、広告収入の減少を招いたとして利益の侵害という点からも問題提起を行っています。
また2025年8月26日には、朝日新聞社と日本経済新聞社が、Perplexityに対して各約22億円の損害賠償を求める訴訟を、共同で東京地裁に対して起こしています。これは robots.txt において拒絶の意思を示しているのにも関わらず、Perplexityがクロールを行ったがために損害を被ったとしています。また、今回の抗議と同様に「回答の引用元に両社の社名や記事を表示しながら、記事の内容と異なる虚偽の事実を多数表示」していることが不正競争行為であるとしています。
これらに関して訴訟に関する続報は現状見受けられませんので、どのように進行しているかは不明瞭です。しかしながら、今後論点が整理されていき、いわゆる「AI時代」における著作権で着目されるべき点が明示されていくこととなるかと思われます。
関連リンク
- 「米国の生成AI事業者パープレキシティ社に対する抗議について」 - 共同通信社
- 「共同通信、米AI検索企業に抗議 「記事を無断利用」産経と毎日も」 - 共同通信
- 「米国の生成AI事業者による著作権侵害等に抗議(2025.12.1)」 - 毎日新聞社
- 「生成 AI 事業者を著作権侵害等で抗議」 - 産業経済新聞社
- 「共同・毎日・産経、AI検索「Perplexity」に抗議 記事の無断利用停止など求める」 - ITmedia AI+
最後に
前回の技術に関する記事: 令和最新版個人サイトの更新通知について考える
この抗議において注目するべき点として、参照元と異なる内容を表示することによってコンテンツの信頼やブランドとしての価値を毀損されたと主張しているという点であると言えます。まず生成AIと著作権の関係性は複雑な話題です。そもそも日米の著作権法が大きく異なり、アメリカ合衆国の著作権法上における「フェアユース」が認められるかどうかは、実質的に裁判所に任せられていることで問題がより複雑となっていると言えます。
個人的にはPerplexity内部で使用しているAI(基本的にはGPTやClaude等外部のモデル、一部回答にPerplexity独自モデルを使用)が、意図的に複製等を行うようにされているか、実質的に複製を行うように設定されているか等を証明しなければ、複製権侵害等で訴えて勝訴することは難しいと言えます。一応はトークンとして一旦変換されて入力され、その後何かしらの「処理」がモデル内で行われた後出力されていますので、複製を意図的に行ったことを証明することは困難であると思っています。そのため、こうした訴訟や抗議は若干無理筋ではないかと思っています。もしAIの挙動を観察して「そのような挙動」が見られた場合でも、それが意図的であるかどうか、また複製を行っていることを確認した際にそれを止める義務がPerplexityにあったのかどうか、といった問題を裁判所が納得する形で示すことは困難であり、判例がまだほとんどない未知の分野と言えるでしょう。
しかしながら、今回「参照元と異なる内容を表示すること」によって「信頼性等が毀損された」といった、 (一般的に言う)著作権とは少し異なる視点での問題提起 がなされました。ここにおいてはPerplexityのAIが「参照元と異なる内容を表示すること」が悪いかどうか、またそれによって信頼性等が毀損されたかどうかという、証明することが極めて面倒な点が主張に含まれており、少しながら無理筋の問題提起ではないかと思います。ただ、将来的に「このAIは間違う可能性があります」といったある種の免責表記が有効なのかについて議論が行われることとなるでしょう。
他にも読売新聞による訴訟において、著作権侵害だけでなく営業上の利益が侵害されてしまったことを問題としているという点は議論となるでしょう。2024年の時点で広告ブロッカーを使用すること自体に違法性が無いとする弁護士の意見がありますが、ここにおいて「広告ブロッカー」が「生成AI」となったとしても同様のことが言えることではないかと思います。このため、AIを通して(フィルターを通して)文章を読むこと自体に問題があるかという点を考えると少々微妙であると思っています。
個人的に根本として必要とされているのは 「コンテンツそのものが利益となれないコンテンツにおいて、誰がどのようにしてその作成にかかる費用を負担するのか」といった問題の解決策・軽減策 だと思っています。殊にニュースにおいては、ニュースそのものにお金を払っているという人は少数です。マスメディアの場合はその制作に対する費用はいわゆる「スポンサー」等によって賄われていますが、そのスポンサー等は(ものすごく抽象化して表現するとすれば、ですが)メディアの発信力に乗っかることによる広告パワーを見込んで費用を出しているといえます。メディアの発信力のある種「埒外」となってしまうAIチャットが普及してしまうと、費用を払う義理は無くなってしまうといった理由から、こうした問題が大きくなってしまいがちです。
また、そうではない場合においても費用はコンテンツそのものから得られている場合は少ないと言えます。例えばこのサイトでは、広告等を一切表示しない代わりに、任意で運営者への贈与を募っていますが、正直十分な収益が上がっているとは言い難い状況です。これに関しても、コンテンツそのものを売っているのではなく、皆さんの良心(?)をいただいているような状況ですので、コンテンツそのものが利益を生む源泉とはなっていないという話があります。
であるからといって、ペイウォールだらけのWebというのは健全な姿とは言えないと思っています。この理由としてペイウォールの先に無償で手に入る情報よりも高品質の情報がある、といった保証は誰もしてくれませんので、(無償コンテンツばかりユーザーが手にした)結果として「ペイウォールの先に誰にも読まれないし誰もお金を払わない、その対価が適当であるかの判断すらされないコンテンツの山が作られてしまうといった世界」、という 全員が損する世界 が構築されてしまう可能性が高いと思っているというものがあります。
Perplexityというある種の「フィルター」を通して情報を得た場合でも、ソースとなったコンテンツの作成にかかった費用に対してどのような負担を求めるべきか、またそれは納得されるものになるのか、といった問題は、実はこのAIとは直接関係がないように見える問題とも深くつながっていると思っています。こうした答えが明瞭に見つかっていない問題に関して、このPerplexityとメディアとの関連性を通して議論が進んでいくこととなるでしょう。今後とも興味深い話題となるかと思います。